「新居に届いた冷蔵庫が凹んでいた」「お気に入りの食器が割れていた」「ダンボールが1箱見当たらない」
引越し作業中の事故は、どんなに大手業者であっても一定の確率で発生します。しかし、焦って感情的に「どうしてくれるんだ!」とクレームを入れても、引越し業者はマニュアル通りの塩対応しかしてくれません。
この記事では、引越し業界歴23年の元管理職が、「標準引越運送約款」に基づいた正しい補償請求のフローと、損をしないための「時価賠償」の計算ロジック、そして業者を動かす具体的な連絡スクリプトを完全解説します。
⚠ 最初にこれだけは確認してください!
補償請求ができるのは、荷物の引き渡し日から3ヶ月以内です。
(標準引越運送約款 第25条)
後回しにすると権利が消滅します。傷を見つけたら、まずスマホで写真を撮り、今日中に第一報を入れてください。
多くの人が誤解していますが、引越しの補償はいきなり「現金払い」ではありません。約款および慣例により、以下の順序で進みます。いきなり「金銭解決」を求めるとクレーマー扱いされるので注意してください。
業者が訪問確認、または写真送付で事故状況を把握します。
提携の専門業者が修理を試みます。直ればここで終了。
修理不可(全損)の場合のみ、時価での現金賠償へ。
アート引越センターやサカイ引越センターなどの大手は、自社または提携の「家具修理専門部隊」を持っています。多少の傷なら、新品同様に修復されることが多いです。これを拒否して「お金がいい」と言うことは原則できません。
ここが最もトラブルになりやすい点です。法的な考え方として、「事故直前の価値(時価)」までしか補償されません。これを「減価償却」といいます。
10万円で購入した冷蔵庫を、3年使ってから壊された場合:
※あくまで概算です。実際は市場の中古相場なども加味されます。
「新品を買うから10万円くれ!」と主張しても、法的には「5万円の利益(新品になることによる若返り利益)」を得ることになるため、認められません。
引越し業者は以下の「法定耐用年数」などを参考に補償額を算出します。
| 品目 | 耐用年数(目安) |
|---|---|
| テレビ・パソコン | 5年 |
| 冷蔵庫・洗濯機 | 6年 |
| エアコン | 6年 |
| ベッド・ソファー(金属製) | 15年 |
| タンス・棚 | 8~15年 |
※耐用年数を過ぎたからといって価値が「0円」になるわけではありません。使用可能な状態であれば、多少の評価額(底値)がつくことが一般的です。
モノによって壊れ方や交渉ポイントが異なります。代表的な例を挙げます。
最も高額かつ揉めるケースです。
メーカーの修理見積もりを取り、備考欄に「強い衝撃による基盤損傷の可能性が高い」と記載してもらうことが最強の証拠になります。
※ HDD/SSD内のデータは、どの業者でも100%補償対象外です(約款事項)。
作業終了時の確認サインをする前に、必ず搬入経路(廊下・階段・玄関)をチェックしてください。
引越し直後の水漏れは、設置ミス(ホースの接続不良)か、運搬時のドラム固定ボルトの付け忘れなどが原因です。
床が水浸しになって階下へ被害が出た場合、引越し業者が加入している賠償責任保険で対応可能なケースが多いので、すぐに連絡してください。
標準引越運送約款には、業者が責任を負わない「免責」が定められています。知らずに交渉すると不利になります。
「節約パック」などで、ダンボールへの箱詰めを自分で行った場合、中身が壊れていても「梱包不十分」として利用者の責任にされることが非常に多いです。
中身が壊れている場合、「ダンボールの外側」を確認してください。
外箱が潰れていたり、穴が空いていたりすれば、「運搬中に強い衝撃が加わった」証拠になります。この場合、自己梱包であっても業者の過失を問える可能性が高まります。
電話で「壊れてるぞ!」と怒鳴るだけでは、担当者は動きません。淡々と事実を積み上げます。
特に重要なのがダンボールの写真です。外側に「打痕(ぶつけた跡)」や「破れ」があれば、運搬中の衝撃が決定的になります。箱は捨てないでください!
言った言わないを防ぐため、ファーストコンタクトは必ずメール(またはお問い合わせフォーム)で行い、履歴を残します。
件名:引越荷物の破損に関する補償のお願い(顧客番号:12345678)
〇〇引越センター 事故対応担当者様
お世話になります。
昨日(〇月〇日)、引越し作業を依頼した〇〇と申します。
開梱作業を行っていたところ、以下の家財に破損を発見いたしました。
【破損物品】 液晶テレビ(ソニー製 KJ-55X8000H)
【破損状況】 画面左上にヒビ割れがあり、電源を入れても映像が映らない。
【梱包状況】 当該テレビを梱包していた専用資材(またはダンボール)の角が潰れており、運搬時に衝撃が加わったものと思われます。
つきましては、標準引越運送約款に基づき、修理または賠償の手続きをお願いいたします。
証拠写真を本メールに添付しますので、ご確認の上、今後の対応手順についてご返信ください。
以上、よろしくお願いいたします。
氏名:〇〇 〇〇
電話:090-xxxx-xxxx
件名:【至急】破損補償に関する再確認(顧客番号:12345678)
〇〇引越センター 事故対応担当者様
〇月〇日に破損の件で連絡いたしました〇〇です。
その後、1週間が経過しましたが、貴社からの進捗のご連絡をいただけておりません。
本件につきまして、〇月〇日(3日後など)までに具体的な対応策のご回答をいただけない場合、標準引越運送約款に基づき、国民生活センターおよびしかるべき機関へ相談させていただきます。
早急なご対応をお願い申し上げます。
引越し業界歴23年。数多くの事故処理(クレーム対応)を担当。感情論ではなく「約款」と「証拠」に基づいた交渉がいかに有効かを熟知しており、消費者が泣き寝入りしないための理論武装を支援している。